いわゆる「サブスク」にお金をボチボチと払っている生活になっておりますが、その中にHuluがあります。
確か「いつでもニュースチャンネルが観れる」って事で加入した覚えがありますが、最近は映画もそれなりに観る様に。
月額980円って事は、月に1本映画を観れば元を取れるっていう消極的な考えもあるのだけど(笑)

Huluのトップページから「最近追加された映画」という項目を観てみると「カセットテープ・ダイアリーズ」というタイトルが目に付いた。
カセットテープ、ね。団塊ジュニア世代を直撃するアイテムじゃないっすか。
これは原題からは何も関係あらへん事に見終わってから気付くのだけど。
邦題マジックもまさに昭和感。QUEEN「Keep Yourself Alive」→「炎のロックンロール」なんでやねん!

映画の説明文を引用すると

イギリスの町ルートンで暮らすパキスタン移民の少年ジャベド。音楽と詩を書くのが好きな彼は、日々の生活の中で鬱屈と焦燥を抱えていた。閉鎖的な街の中で受ける人種差別や、保守的な父親との確執など、彼の悩みは尽きない。だがそんなある日、モヤモヤをすべてぶっ飛ばしてくれる、ブルース・スプリングスティーンの音楽と衝撃的に出会い、彼の世界は180度変わり始めていく―。

これは惹かれる。スプリングスティーンかあ、なんか懐かしいなと思いながら映画を見始める。

「実話に基づく物語である」という事が冒頭で示される。
これはサルフラズ・マンズールという人の自叙伝「Greetings from Bury Park: Race, Religion and Rock N’Roll」に基づいて映画化されたとか。
この自叙伝のタイトルからして、ブルース・スプリングスティーンのデビューアルバム「Greetings from Asbury Park, N.J.(アズベリー・パークからの挨拶)」から引用されてるので、相当なブルースファンなんだな、という事がわかる。
ちなみにこの映画の原題は「Blinded by the Light」これもブルース・スプリングスティーンのデビュー曲から引用されています。
邦題は「光で目もくらみ」。

ちなみにサルフラズ・マンズールは1971年生まれ。
映画も1987年のイギリス、主人公は16歳という舞台でストーリーが展開していく。
・・・・まさに自分と全く同じ時間軸なわけなのだ。

冒頭で鳴り響くのはペット・ショップ・ボーイズの「It’s a Sin(哀しみの天使)」。
そう、ちょうど自分が「洋楽っておもんなくなってきたな・・・」と思ってた頃の大ヒット曲。

こういうシンセバリバリの曲はなんかもう聴くのしんどいなって思って、メインで聴くのは邦楽の方に移行していったのを思い出す。

映画に話を戻すと、主人公が大学に入学して「これからは楽しいキャンバスライフだ!」という矢先に父親が失職。
1987年のイギリスと言えば、サッチャー首相の新自由主義(サッチャリズム)によって失業率が高くなってた頃。
ロンドンパンクの頃(1977年~)頃よりもこの時期は失業率が高く、そしてその怒りのはけ口を他人種に向けるような人々も出てくる。
イギリス国民前線(NF:白人至上主義の政党)がこの映画でもしっかりと描かれてますが、パキスタン移民2世である主人公も例外ではなく、差別や迫害の中で日々を生きているわけです。

父親の失職、そして自分の夢を頭ごなしに否定された事により「もう将来に夢も希望もない!」という夜に、主人公は友達から借りたブルース・スプリングスティーンのカセットテープをウォークマンに入れて初めて聴くわけです。
その時に流れるのが「ダンシン・イン・ザ・ダーク」。
あのモンスターアルバム「ボーン・イン・ザ・USA」からのファーストシングルです。

おわあ、懐かしい。MTV全盛の頃、何回も何回も見たこのPV。
この曲、PVの最後で最前列のきれいなお姉ちゃんを「ヘイベイビー!」と呼び込んで踊ったりするもんだから、能天気なロックンロールと思われがちなんですが、実はものすごい鬱屈した歌詞世界なんですな。

自分の状況とこの歌詞が完全にリンクして、主人公の思考・行動が変わり物語はどんどん進んでいきます。
ストーリーに関しては、ハッピーエンドなのでここでは割愛。

何かをきっかけに自分の目の前の世界、色が何もかも変わってしまうという体験。
自分にもそれは何度か確実にありました。
プリンスの「パープル・レイン」を観てから初めてギターを手にした時もそう。
家を出て就職して嫌だ嫌だこんなはずじゃねえって思いながら働いてた時に聴いてた曲もそう。
そんな時代を通り過ぎて現在に至るわけですが、その時の光景や心の動きを未だに覚えてるからこそ、今でも前を向いて生きてられるのかな、とそんな事をこの映画を観て思いました。

ブルース・スプリングスティーンに関しては初めて聴いたのは1980年の「ハングリー・ハート」。

「あれ?これって佐野元春のサムデ(以下自粛」ってのはご愛敬。
というか、80年代の邦楽ロックは歌詞世界はともかく、アレンジ面でスプリングスティーンはかなり引用されたのは事実。
「明日なき暴走」を聴いたのは、それこそだいぶと大人になってからだった気がしますが、その時に頭に浮かんだ邦楽ロックは何曲あったことか(笑)

スプリングスティーンに関しては歌詞世界をきっちり理解しないと、本質が見えてこない気がします。
2020年の新作もサブスクで聴きましたが、サウンド面も歌詞世界もこの人は本当にデビュー以来ブレがないというか、頑固なまでの誠実さを感じるんですよねえ。