ようやく浦沢直樹氏の「BILLY BAT」を全巻読み終える事が出来た。
「風呂敷広げるだけ広げて最後は投げっぱなし」という評価をされる事が多いこの人の作風ではありますが、自分はあの「20世紀少年」のラストも別に嫌いではなかったし、あれぐらいの余韻が好きなタイプです。

「BILLY BAT」に関しては連載当時からちょくちょくは読んではいました。
下山事件にケネディ暗殺と歴史ミステリー好きならたまらん素材がバカスカと出てくるんですが、いかんせん描かれてる時代もバカスカと飛びまくるので、少し読まない期間があると「ん?これは今なんの話や」ってなってまうんですな。

これはもう読むときはコミックスで一気読みせなあかん、と思いつつも完結から4年も経ってしまってたと(笑)

読み終わった感想としては、まあようここまで詰め込んだな、と。
イエス・キリストとユダ、アインシュタインやフランシスコ・ザビエルなどのユダヤ系の人達から、それこそ白洲次郎までひょこっと登場するあたり、歴史に関してある程度知識がないとけっこうしんどいはず。

物語のキーになるコウモリ「ビリー」が繰り返し言う「人間にはそれぞれ役割がある」というセリフを読んで、頭の中に思い浮かんだのはブルース・スプリングスティーンの1980年のシングルである「ハングリー・ハート」

1980年辺りはヒット曲のアレンジがいわゆる「オールディーズ」系のシンプルサウンドが流行しつつあった頃。
このナンバーもパッと聞いた感じでは循環コードで、ベースラインをサックスが追うという比較的能天気なポップスなんですが、歌われてる内容は実はそれなりにヘビー。

もちろん、この曲を最初に聴いた頃はまだ小学生だったのでそんな歌詞の意味は全く知りませんでした。

Got a wife and kids in Baltimore, Jack
I went out for a ride and I never went back
Like a river that don’t know where it’s flowing
I took a wrong turn and I just kept going

Everybody’s got a hungry heart
Everybody’s got a hungry heart
Lay down your money and you play your part
Everybody’s got a hungry heart

I met her in a Kingstown bar
We fell in love I knew it had to end
We took what we had and we ripped it apart
Now here I am down in Kingstown again

Everybody needs a place to rest
Everybody wants to have a home
Don’t make no difference what nobody says
Ain’t nobody like to be alone

ボルチモアには女房と子供がいたんだ
俺はちょっと車で出かけ、そのまま二度と戻らなかった
まるで川と同じ。自分がどこを流れているのか知らない
俺は間違った角を曲がり、そのまま走り続けたってわけだ

誰だって飢えた心を持ってる
誰だって飢えた心を持ってる
有り金すべて賭けて、自分の役割を果たせ
誰だって飢えた心を持ってる

彼女とはキングスタウンのバーで知り合った
そのまま恋に落ちたが、いずれ終わる事も承知済み
俺達は何かを得たが結局元通りにそれを二つに裂いた
今また俺はこうしてキングスタウンにいるってわけだ

みんな安息の地を必要としてる
みんな帰る家が欲しいのさ
誰も言わないことなんてどうでもいい
一人が好きなやつなんていやしないんだ

曲調の能天気さが微塵もないこの歌詞は、なにかこう・・・中年男の心情を表している気がします。
きっとこの主人公は飢えた心が満たされる事なく、自分の役割を演じ続けるのではないのでしょうか。

その後「ボーン・イン・ザ・USA」でアメリカ国旗背負ってはったブルースさんですが、あの曲の今聴くと顔から火が出そうなシンセアレンジがとても印象的。

このPVの内容も若干影響しているとは思いますが、当時レーガン大統領が選挙に利用したおかげで愛国主義者的な誤解を受けたのを覚えています。
実際はベトナム戦争帰りの兵士の心情を歌った歌詞でどちらかというと「こんなクソみたいなアメリカで生まれてしまった」というニュアンスに近いです。

「BILLY BAT」の終盤、主人公の一人である漫画家ケヴィン・グッドマンは自分のやるべき事を悟ります。

「描いて描いて描きまくるんだ」

結局、自分の出来る事をめいっぱいやるしかない、ってのが人生ってもんで
それが誰かから与えられた「役割」なのかもしれません。

ただそれが一体何なのか、を絞りきれる人も実際はとても少ないような気がしますね。
そんな事をふっと考えてしまうマンガでありました。