3歳になる娘は、日本の子供たちがほぼ通る道をまっすぐと歩んでるようで
誰が教えたわけでもないのにアンパンマンを好むようになった。

驚異的な情報収集力を誇るベネッセが推すキャラ「しまじろう」は
今となっては部屋の片隅で死体の様に放置されたままなのに
気がつけばアンパンマンを指さして「アーン、アーン」とまだ喋れない時から
指さしてニコニコしていた、というこの恐るべき事実。

グッズなども自然とアンパンマン関連を選んでしまうようになり
他のノンキャラクター物の倍はする値段に、我々夫婦は
「やなせ代」とか「やなせ組へのミカジメ」などと揶揄している。

DVDなどを見るようになった頃からは、それを見せておくと
おとなしく座ってそれらを見ているので、その間に家事を済ませたりできる。
このようになんとも助かるグッズなので、色んな物を借りてきて見るのだけれど
一緒に見たりしてる内に、親もアンパンマンの世界がなんとなくわかりだす。

だって見ないですもん。子供でもいない限り。

中には「赤ちゃんマン」などという、どうにも納得いかないキャラがいたり
発明もこなし、それなりにモチベーションがあるにも関わらず
一人の悪い女に引っかかっているだけで、悲惨な事になっているばいきんまんに
「ああ、こんな中小企業の社長いたよなあ・・・」と哀愁を感じたりと
それなりに大人が見ても楽しめるもんなんだな、と感じていた矢先の事。

「劇場版」と称するものを見ている時にものすごく感じる違和感。

アテレコの演技がものすごくヘタクソなやつが混ざっている!という違和感。

まだテレビの前にいて画像と共に見ている時には納得できるものの
家事をしながら声だけ聞いてたら、どうにもこうにも一人だけ
レベルが低い、というかその棒読みさに「おいおい、これOKテイク出したん誰や」と
思わずテレビの前に移動してしまうほどなのである。

どうやら、劇場版には毎回「ゲスト声優」として著名な芸能人が呼ばれるらしい。
いわば「専門外の人が準主役に当てられる」というのが恒例化しているようなのだ。

今現在公開されてる最新作「とばせ!希望のハンカチ」には
本仮屋ユイカとサンドウィッチマンがキャスティングされている様子。

アンパンマンに限らず、声優さんのすごい所は
「声だけの演技で全てをイメージさせられる力がある」部分で
だからこそラジオドラマなんてえのが成り立つわけです。

メタルギアソリッドシリーズで有名な大塚明夫さんが、
タクシーに乗って行き先を告げた時に、運転手さんが「す、スネーク?」と
思わず言ってしまったというエピソードが全てを物語るように
さっすがプロやのう、と言える仕事のレベルというのが存在するはずなのだ。

自分のようにおっさんになると、全てのプロジェクトには
「予算」「納期」「組織の力関係」などが複雑に絡みあう事もわかるだけに
このアンパンマン劇場版に巣食う、なんとも言えない「大人の事情」が
ぼんやりと浮かび上がってくる気がしてならない。

恐らくオーディションも何もなくキャスティングが
制作に名を連ねる日テレとの関係が深い事務所とのやりとりで先に決まり、
「次は○○さんがゲストではいりまーす」がまずありきで制作が始まるのだろう。
レギュラー陣がスイスイと録音を進めていくその別枠で
ゲスト女優が優雅にスタジオ入りして、録音をするものの
ブースでは「・・・・・」という顔のディレクターさんや音声スタッフ。

「(おいおい・・・・どうすんだよこれ・・・・)」
「(誰か録り直しの指示しろよ・・・)」
「(ばっか、言えるわけねえだろ。相手大御所なのに・・・)」

「い、いやー。バッチリですよ○○さん!」
録り直しを指示出来るはずもなく、納期も近い。
これを何とか形にしなければいけない立場の人がいるのだ。確実に。

「こんなもん世に出せるか!」と憤慨する職人気質の人もいるだろうが
「まあ子供相手のもんだしこんなもんか」という判断をして
すべての人を納得させなければプロジェクト自体が崩壊する事を知る人もいる。

「本当のプロだけでやれたらどんなに素晴らしい物になっただろう・・!」
そう思うのは誰しも同じ。だけどそんな現場なんてどこにも存在しないのだ。
ゴリ押し、横ヤリ、急に現れてわけのわからない事を言い出すクライアント。
しかし、プロジェクトとはそんなものなのだ・・・・・・

・・・・という事を、子供相手の映画で感じさせるのは一体どうなんですかね。
いや、勝手に感じてるこっちが悪いのかも知れませんが(笑)

吹き替えが最高に酷かった、というのでまず思い出すのは
あの名画「タイタニック」の2001年の初地上波放送だろう。
ジャック=妻夫木聡、ローズ=竹内結子といういかにもなキャスティングで
自分自身、見ていて恥ずかしくなってしまって途中でチャンネルを替えてしまいました。

あの時にもしTwitterがあったなら、中継が大炎上していたと思います。
しかし、あのひどい吹き替えでも視聴率は35%という驚異的な数字だったので
「これはこのキャスティングのおかげ」と言い張る人もいたでしょうね。

アンパンマン劇場版の中で一番ひでえな、と思ったのがこの「ロールとローラ」。
ゲスト声優は黒木瞳なのですが、宝塚で舞台をはってた人でさえも
声優というのは難しいんだなあ、と実感してしまうほどのクオリティ。
冒頭の10分間はロールパンナとの絡みが延々続くのですけども
これをOKテイクにした現場の辛さを考えると涙が出てなりません。

ロールパンナ絡みの話は、大人でも見応えのあるストーリーが多いし
特にこの作品は「笑うロールパンナ」や「ドレス姿のロールパンナ」が見れるという
なかなかレアなものなので、相方のローラ姫(黒木瞳)のひどささえなければ
もっといい作品になっただろうなあ、と思います。
どうしても気になって世界に感情移入出来ないんですよ。

まあ、子供にはわかんないんでしょうけど(笑)

逆に誰が声当ててようが、子供にはわからんのだから
こんな無駄な事やめりゃいいのにな、って思うんですけどねえ。

大人の事情、なんでしょうなあ。