巷では成人式当日に夜逃げした着物業者「harenohi(ハレノヒ)」の話題で持ちきり。
それにしても当日の朝ってのは悪質だなあと思いながらニュースを眺めていた。
一生に一度というタイミングでこの被害にあうのは相当ショックだろうと思う。
社長や幹部が雲隠れしてしまって、矢面に立たされる支店長もキツいだろうなこれ。

自分自身、着物という物とは縁が遠かったせいもあり知識も何もないに等しいのだけど
若い頃、ほんの少しの間だけ「着物業界」に触れてた事があったのを思い出した。

「なんぞ都合のきく仕事ないかな」というのはバンドマンにとっては共通の話題。
それでいて楽であればなお良いなあ、とバイト情報誌を眺めていると
「配送・および運転手急募。(車は自由に使ってもらってOK)」というのが目に付いた。
その時は自分の車を持っていなかったので「こりゃいいや」と即応募。
・・・・これ以前、何の仕事してたかは忘れてしまってますが働いてはいました(笑)

フタを開けてみると、こう。
求人を出したのはある大手デパートの着物売り場から独立した高齢の男女。
しかし二人とも免許を持っていないためにお客さんの所に行くのに公共交通機関を使うしかない。
それだとサンプルの反物や着物を持って行く数も限られてしまうので車を購入して運転手を雇おう、という事。
そこに僕が情報誌を見て応募した、ってわけですな。

面接では着物の事について聞かれたけど正直に「全く知りません」と答えました。
ただ、配送の仕事はそれなりにやってたので運転が苦にならないのと地図に強かったのが良かったのか即採用。
翌日から得意先にその二人と反物や着物等を乗せて言われた場所に向かう日々がスタートしました。

ただ、その高齢のお二人の話題が
「家柄」とか「格式」とかばっかりだったので、非常に育ちも家柄も良くない僕は
「へー。おもしれえ。」と思いつつガムをクッチャクッチャ噛みながらハンドルを握ってたわけです。

言うても黒塗りの外車でスーツ着てって感じではなく、ADバンにジーンズというラフなスタイル。
お客さんの所に乗せて行った時は「こっちが呼ぶまでどこか行っててくれ」と追い払われましたw
もちろん、お客さんのお家に入れてもらった事など一度もありませぬ(笑)
そのADバンは乗って帰っても良かったので、勝手にカーステ付けたりその車でバンド機材運んだりw

ただ商談が白熱すると4時間も5時間も出てこなかったりするのでその間は車で寝てたり、ゲーセン行ったりしてたからとても楽。
ライブやスタジオがある日以外は遅くなれば遅くなる程、こっちも給料が増えるわけですからな。

それなりにこの仕事を楽しんでたのですが、やっぱりそういう仕事のやり方だと行き詰まりを感じたんでしょうね。
どこかに会場を借りて展示会を華々しくやろう、という話になりまして。
その日が近づくにつれて、お手伝いしてくれるナントカさんっていう胡散臭いオッサン達を事務所で何人も見かける様に。

「・・・・・あの人ら、大丈夫なんスか?」と正直な気持ちを問うてみたのですが
あなた風情に何がわかるっていうの!みんな私たちが面倒見てあげたのよ!」的な答えが返ってきたので、めんどくせえと思いながらもうこの話題には触れないでおこうと。

で、展示会当日。○○時に事務所に来てくれ、と言う事だったので行ってみると
反物や着物などを何のチェックもせずにすでにその怪しいオッサンらが運び出しておりました。
そのおっさんらが乗ってきた車、それぞれに勝手に積み込んで。
「・・・・・・おいおい、これは・・・・」と非常に悪い予感がしたので、お二人に聞いてみると「余計な事は心配せんでよい」という答えが。

もう知らねえぞ、と思いつつ展示会は終了。
荷物を事務所に戻す段階で案の定、反物や着物が足りない!と大騒ぎになり、その怪しいオッサンらは姿を消して電話にも出なくなっておりました。

被害総額はかなりのモンだったらしいですが、元々着物に全く興味も関心もなかったのが幸いしたのか僕自身は全く疑われずに済みました。
というか、こうなる事を心配しての助言をしたんですがそれを蹴ったのはお二人ですしね。

その翌日からはもう得意先訪問どころじゃありませんや。
そのオッサンらの家の前で張り込んだり留守電サービスのパスワード割ったり(当時、暗証番号が未設定だと1234で簡単に外部から留守電をチェック出来た)、住民票取って本籍地に飛んでみたりもはや何の仕事かわからんように。

で、そんな日々が1ヶ月ほど続いたある日。
「こういう状態なので申し訳ないけど・・・」とそのお仕事はなくなりました。
その後のお二人はどうなったのかは知りませぬ。

いわばこれもハレノヒの事件と同じ「まさかあの人(企業)がそんな事をするとは思わない」というのを逆手に取ったお話ですな。
あの反物や着物を盗んでいったオッサンらは今ももしかしたらどっかで同じような事してるのかも知れません。

と、そんな想い出話でありました。