以前、息子を連れてライダー映画を見に行った際に流れてた予告編で「あ、これは見たいな」と思ってたのがこの映画。

1962年、というキーワードだけでもストライク。
しかし、上映期間中には色々とバタバタとしてたようで結局見に行けずじまい。
それがAmazon Prime Videoに来たのでようやく見れた、と。

実話を元にした作品で、黒人ピアニストのドン・シャーリーがアメリカ南部にツアーに出る際に用心棒としてイタリア系アメリカ人、トニー・ヴァレロンガを雇う、とお話。
映画を見る前に、1962年のアメリカがどういった状況だったかは頭に入れておくと良いかもしれない。

アメリカで人種差別を禁止する法律「公民権法」が成立するのは2年後の1964年である。
なので、黒人の一般公共施設の利用を禁じる「ジム・クロウ法」がアメリカ南部ではまだ有効だった時代。
黒人が利用出来る施設などをまとめたガイドブックが存在していて、それがこの映画のタイトルでもある「グリーン・ブック」である。

ドン・シャーリーは大学を出て名誉博士号を持つクラシック系のピアニスト。仕草も喋りも優雅。
住まいもカーネギーホールの上というまさに上流階級に属する成功者。
一方、トニーはクラブの用心棒で腕っぷしと口のうまさが自慢のガサツなおじさんという感じ。
トニーは普段から仲間内で黒人の事を「黒ナス」と呼んでおり、家の修理に来た黒人に出した飲み物のグラスをゴミ箱に捨てたりしていた。

そんな二人が旅に出て何も起こらないわけがない。
ラジオから流れるリトル・リチャードやチャビー・チェッカーを知らない、というドンに驚くトニー。
「サム(クック)もアレサ(フランクリン)もあんたの同胞じゃないのか?」

そんな会話をしつつも、車はケンタッキー州に差し掛かり、トニーは「本場のケンタッキーフライドチキンじゃねえか!」とバケツで買い込む。
「黒人のソウルフードはフライドチキンだろ?」とドンに聞いてみると、ドンは食べたことがないという。
「じゃあ食ってみろ」というのがこのやりとり。

そしてここから先は当時のアメリカ南部の「普通」に困惑する二人が描かれていくわけですが、まだ見てない人にはネタバレになるのでここまで。

見終わって思ったのが、最近の「何度も見ないとよくわからん」的な映画とはまるで違って、伏線の張り方がとても丁寧なのが印象的でした。
セリフやアイテムの一つ一つがとても効果的に使われていて、主人公達の感情の動きを的確にサポートしてるんです。
脚本もカット割りも「え?」って思うところが全くなかった、というのはひさびさじゃないだろうか。

一部には「結局『白人の救世主』の映画じゃねえか」という批評もあるようですが、トニーが「ブロンクスに住んでるイタリア移民」だという事を忘れてしまうと話がかなり変わってくる気がしますな。

この映画で描かれた1962年の1年後にはあの「ワシントン大行進」が行われ、そして1964年の公民権法で「法律として」の人種差別はなくなりましたが、トランプが大統領になったあたりから世界がなんかおかしくなってきてる気がします。
頭では「差別はいけない」とわかりつつも、それを実践出来てるかというと、この国も例外ではありません。

目の前の人にどう向き合ってお互い心を開くのかを見つめ直す、というテーマに希望を持たせたという事だけでもこの映画の意義はあったような気がします。
スパイク・リーは怒ってたみたいですけども・・・

https://www.businessinsider.jp/post-214663

よい映画でした。僕にとっては。