変な夢ばかり見るのはきっとこの高熱のせい。
ふっと目覚めて「ああ、夢やったか」と思いながらも妙に納得してしまったり、現実との合間をフラフラ漂ってる感がものすごい。
そのまますっと起き上がって便所にでも行ければ良いのだけど、倦怠感のせいでそれも出来ぬ。
そしてまた眠りに落ちて、同じような夢を見る事の繰り返し。

極限までガマンしてから仕方なしに布団から這い出る。
布団に地図を描くようなマネはまだまだ出来ぬ(笑)
目をこらして時計を見ると午前5時。外はまだ暗い。

すでに柔らかく、そして冷たくもなくなったアイスノンを交換しにリビングへ。
体温計が目に付いたけど、具体的な数字は回復を目指す今となっては見たくもない。
そういえば、今日は1.17だなという事をぼんやりと思い出す。

あの時もそういえばこうして熱を出して寝込んでいた。
今までで唯一のハコバン経験の真っ最中、遅れた正月休みをもらったのがこの日だった。
じゃあ明日の朝からでも西の方へドライブでも行くか、と当時の彼女と話し合ってると急にしんどくなって熱が出てきたのである。

「こりゃあお休みは寝とかんといかんね」と諦めモードで眠りについたのが1.16の夜。

ベッドで寝ている身体が一度「ズン」と1回だけ沈み込んだ。
「え?なんや今の?」って目が覚めた数秒後にはものすごい揺れが襲ってきた。
寝室の隣のリビングに置いてあった食器棚からはパリンパリンと食器が割れる音。
慌ててベッドに走り込んでこようとする愛猫の上にタンスが倒れかかった。
が、そこに立てかけてあったアコースティックギターのおかげで愛猫はその隙間に入り込んで助かった。

揺れが収まっても回復しない電気。
窓を開けて外を見ても真っ暗。
目覚ましに付いてたラジオを付けてみるとまだ数人がケガをした、ぐらいの放送しか聞き取れず。

不思議な事にこの時、熱はすっかり引いていた。
「朝からでも西の方へドライブ」という予定が実行されていれば、もしかしたらちょうど神戸の街あたりを走ってたかもしれない。
あまり霊的な物は信用しない方だけど、きっとこの時は「虫の知らせ」が働いたのだろう。

そのまま再び眠りについて、昼前ぐらいに起きた。
電気が回復してたのでテレビを付けてみると、その光景に唖然とするしかなかった。

これがあの時の自分の体験。
さっきまで見てた変な夢とは違うれっきとした実体験だ。

熱がある身体でぼーっとリビングを見渡してみると
あの時の食器棚。今は倒れない様にボルトで固定してある。
あの時のアコースティックギター。愛猫はもう空に帰ったけどこいつはまだ現役。

忘れてはいけない事に違いないけれど、忘れる事が出来るから人は生きていける。

あの時の空の黒さに似て
あの時の心細さに似て
あの時の空っぽに似て
あの時とかけ離れたオレがいる
“2月というだけの夜” SION