昨年末にあまりに急すぎる亡くなり方をしてしまった大滝詠一氏(以下、御大)。
日本のポップス界に多大なる貢献をした人物であるだけに
早すぎる死は個人的にものすごくショックだった。

御大の最後のオリジナルアルバムは1984年に発表した「EACH TIME」。
大ヒットした前アルバムの「A LONG VACATION」から
3年のブランクで発表されたこのアルバムですが
今年の3月でEACH TIME発売からちょうど30年って事なので
30周年記念盤である「30th Anniversary Edition」が発表される予定だった。
しかし、昨年末の急すぎる死でこのアルバムがどうなるのかと心配してましたが
リマスタリング作業は11月にすでに終わっていたらしく、予定通り発売されたようで。

記念盤が出る度に曲順の変更が全くなかった「ロンバケ」に比べて
この「EACH TIME」は再発する度に、曲追加・削除、ミックス変更、エンディングカットなどなど
様々な変更がされているのが特徴で、今回もまた曲順が変更されている。
EACH TIMEのwikipediaはこちら

1984年当時の曲順で聞きまくっていた自分は20周年記念盤を買った時に
今まで覚えのない曲(「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」)があるのに違和感があり
そして1曲目が「魔法の瞳」ではなかったのもすごく気持ち悪かった。
「レイクサイド・ストーリー」がフェイドアウトで終わった後に知らん曲が流れ出す、
というのに慣れるまでにものすごく時間がかかったのを覚えています(笑)

このアルバムの30周年記念盤を待ち望んでいた人はほとんどが
「レイクサイド・ストーリー」の大エンディング版(オリジナル発表時のもの)の再収録を
望んでいたと思うのだけども、今回もまたもやフェイドアウトバージョン。
しかし、ボーナスディスクである歌なし(カラオケ)は大エンディング版という
なんともおもしろい結末となりました。
御大としてはこれが最後の答えだったのかもしれませんが、ちょいと残念ではあります。

思えば初めて御大を聴いた時、自分は小学校4年生。
実家が商売をしてたので、そこに出入りしているアルバイトのお兄ちゃん達が
持ち込んできたカセットテープの中に「ロンバケ」があったのがきっかけ。
様々な人が持ち込むカセットテープによって、この頃から色んな音楽を聴くようになり
FMのエアチェックを始めたのもちょうどこの頃。

今考えてみると、1980年初頭から数年というのは世の中のヒット曲のアレンジが
「古いフォーマット」に向かっていた時代で
ブルース・スプリングスティーンの「ハングリー・ハート」(Youtube)
J.Dサウザーの「ユア・オンリー・ロンリー」(Youtube)
REOスピードワゴンの「涙のレター」(Youtube)
ビリー・ジョエルの「さよならハリウッド(ライブバージョン)」(Youtube)
などなど、どれもこれもシンプルかつルーツを感じさせるアレンジばかり。

まだ「フィル・スペクター」なんていう重要な記号も知らないガキの頃。
曲を構築する際に恐ろしい所から曲を引用してくる御大の音楽や
これらのヒット曲達をまだ子供の時に聴けたという事はとてもラッキーでしたね。

大人になってから様々な曲のルーツを探る旅に出た時に
昔の曲を「古くさいな」と思わなかったのはこの当時の空気のおかげかも。
ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」なんてたまにラジオで流れて来ても
あのイントロの深いエコーのバスドラとスネアに未だに胸がときめきます(笑)

僕にとって「ロンバケ」はやっぱり夏のイメージがあるアルバムで、
未だに夏になると山下達郎の「BIG WAVE」と並んで聴く回数が増えるのですが
この「EACH TIME」は四季折々のテーマの曲がちりばめられてるので
聴きおわると1年を走りきった気分になれます。

それと、御大の盟友である松本隆氏の書く歌詞の
なんとも大人な世界に子供ながら憧れていたのだと思います。

別れた恋人と駅のホームで偶然に出会った、という「木の葉のスケッチ
別れを決めた恋人を送って行く途中に車が壊れる、という
ものすごいシチュエーションをうまく歌詞にした「ガラス壜の中の船
このシチュエーションもそうですが「僕は工具とあきらめを手にしてる」なんて
表現を思いつくところがやっぱりプロってすげえなあ、と。

そういえば御大の曲って「恋するカレン」もそうですが
こっぴどく振られてしまうストーリーがとても多い気がしないでもない(笑)
自分の実生活に重ねてそんな所にシンパシーを感じていたのかもしれませんがw

やっぱり一番すごいな、と思うのが「ペパーミント・ブルー」の
「斜め横の椅子を選ぶのは、この角度からの君がとても綺麗だから」
なんでこんな表現が出てくるのか・・・すごいわやっぱ。

今回の曲順に慣れるのもちょいと時間がかかるかもですが
御大の最後の仕事っぷりをじっくりと楽しむ事にしましょう。

「ロンバケ」の30周年記念盤はこちら。